一つの繭玉から取れる糸は、長さが約1,2~1,5㎞だそうです。これを紡いで絹織物が作られます。着物を仕立てるには一反(幅約36㎝、長さ約12mが基準)の着尺地が必要です。
その昔、私の幼い頃には生家で蚕を飼っていました。白く小さなお蚕さんはかわいくて、掌に載せて遊んでもいました。明け方に「カサカサ」と音がするので、不思議に思っていたのですが、それはお蚕さんたちが桑の葉を食む音だったのです。このお蚕さんが、やがて純白の美しい絹織物になるとは想像もできない年齢でした。
小学校5年生の頃に見た、東宝制作の怪獣映画『モスラ』(1961年公開)の中に、蚕が繭を作る様子が詳しく描写されていました。
「モスラ」は全長100mを超える架空の怪獣ですが、都内を破壊し尽くし、最後に東京タワーで糸を吐き出して巨大な繭を作り始めます。その際に首を8の字に振り動かしながら糸を吐き続けて、美しく整った繭の形にしてゆく様が印象的でした。
この場面の発案者も、その昔に蚕の繭作りの様子を不思議に思いながら見ていたのかもしれませんね。
そして、旧農林省蚕糸試験場等への綿密な取材がなされ、繭作りを忠実に再現したのかもしれません。制作現場の方々の職人魂を見るようで、その苦労が偲ばれます。
前野まち子