運針とは「布を縫い合わせるために必要な技術であり、和裁の基礎的な技術は運針に始まり、運針に終わるともいえる」と日本和裁士会編・和服裁縫に載っていますが、出来上がりの見た目は普通のなみ縫いです。 和裁を始めた15年ほど前のことです。「こんなのすぐに出来るようになるだろう」となめてかかりましたが、やってみると一針も前に進みません。何度も「一生できるようになる日は来ないのではないか」と諦めかけました。しかし毎日毎日朝から晩まで運針をしてしばらく経ったある日。運針をしてから糸こきという糸にゆるみを入れる作業を終えると、縫い目がつやつや並んで光る宝石のように見えました。その後、考えた人を呪いたくなるような難しさの「くけ」や、袷の着物の難しさは「一生できるようになる日は来ないのではないか」と思う事の連続ですが、光る縫い目を見たあの日から和裁の沼にどっぷりはまって抜け出せないまま今に至ります。