2021年4月1日の東京新聞朝刊の投稿欄「あけくれ」に、心温まる一文が掲載されていました。
50年前にお母様から譲り受けたままの着物を解いて、ジャケットに作り替えた、という方の投稿です。
『・・・しつけ糸を取る。トン・トン・ツーの糸目のリズムが小気味よい。美しい縫い目には、しばしば手が止まる。要所、要所の止メの強固さに舌を巻く。裾まわしの色使いといい、どの行程一つをとっても、心憎いばかりの気配りが感じ取れる。縫った人の息づかいまでもが、伝わってくるよう だ。・・・』
そして、そのジャケットを着てお母様の墓参に行かれるとのこと、『許してください。母上。』で結ばれていました。
亡きお母様への思いと、長いこと大事に仕舞ってあった着物に対する思い、解く前の心やさしい細やかな観察力が伝わってきます。
つい先日の事ですが、一度も袖を通すことなく仕舞ったままの小紋を、お孫さんの七歳の祝着に作り替えたい、という方がいらっしゃいました。肩揚げをして可愛く仕立て上がった着物をご覧になり、『万感の思いです!』と言ってくださいました。
私たちの仕立てた着物は一度解くと、その役目を終わります。でも、洗い張りをしたりして反物の状態に戻り、また着物や羽織、他の方の役に立つこともあります。思い出の着物を美しく甦るように仕立てる、という役目もまた待っています。その時には、『縫った人の息づかいまでもが、伝わってくる』ような評価がもらえたら、うれしいですね。